AIと人間はどのように共存すべきか 通訳?翻訳を通して考える
異文化コミュニケーション学部異文化コミュニケーション学科 武田 珂代子 教授
2018/02/08
研究活動と教授陣
OVERVIEW
外国人旅行者が年々増加し、2016年には外国人労働者が100万人を超えた現在の日本では、通訳?翻訳のニーズが急速に高まっています。AIベースの自動翻訳など技術の進歩により大きく変わろうとしている社会を生きる私たちに求められる力とは。通訳翻訳研究を専門とする異文化コミュニケーション学部の武田珂代子教授に伺いました。
通訳や翻訳を取り巻く環境はどのように変化していますか。
出典:厚生労働省ホームページ
従来、通訳者のニーズは、国際会議やビジネスの場などでの「会議通訳」に多くありました。ところが在留外国人が増えるとともに、「コミュニティ通訳」と呼ばれる地域社会に暮らす外国人のためのニーズが高まってきました。例えば医療の現場や役所での福祉サービスの手続きといった日常的な通訳のほか、災害など非常時における通訳、さらには、さまざまな事件における外国人の被告人や証人のための法廷通訳など、会議やビジネスとは違ったニーズが増加しています。
多文化共生社会が進行中の日本では、コミュニティ通訳の需要が今後ますます高まると予想されています。ボランティア的な通訳者に頼っている現状を改善し、専門職としてのコミュニティ通訳の確立としっかりとした訓練が必要です。一方、AIを活用した機械翻訳(Machine Translation/MT)や自動通訳に期待が寄せられており、そうしたテクノロジーは既に私たちの生活に浸透し始めています。
多文化共生社会が進行中の日本では、コミュニティ通訳の需要が今後ますます高まると予想されています。ボランティア的な通訳者に頼っている現状を改善し、専門職としてのコミュニティ通訳の確立としっかりとした訓練が必要です。一方、AIを活用した機械翻訳(Machine Translation/MT)や自動通訳に期待が寄せられており、そうしたテクノロジーは既に私たちの生活に浸透し始めています。
AIの進化に伴い、通訳者や翻訳者は不要になるのでしょうか。
結論から申し上げると、目的に応じて補完し合い、共存していくものと考えています。
MTはルールベース、統計ベースからニューラルベース、つまりAIを活用するものへと進化する中で、その性能が急速に高まっています。美学的側面を持つ文芸作品や、字数などさまざまな制約のある字幕の翻訳が、近い将来AIにとってかわるとは思えませんが、技術資料やビジネス文書などを扱う「産業翻訳」の世界では「MT+ポストエディティング(PE)」が主流になるのではないかといわれています。PEとは、MTによる訳出を人間が編集する作業です。このPEを誰が担っていくのかが、翻訳研究者や産業界で議論されているホットな話題の一つです。
一方、通訳の「機械化」は少々複雑です。自動(機械)通訳は、音声をテクスト化し、そのテクストをMTにかけ、その結果(テクスト)を音声に戻すというステップを踏む仕組みになっています。まずは、正確な音声認識の技術が必要なのですが、話し言葉の特徴であるアクセントや言い淀み、またジェスチャーなどの非言語要素に対応するのは難しいことです。さらに、日本語には敬語があります。通訳者はコミュニケーションにおけるそれぞれの当事者の関係性などを見ながら適切なレベルの言葉を選んでいますが、こうした点はMTが苦手とするところです。
レストランでの注文や道案内などの短いトランザクションでしたら、自動通訳が対応できることもあるでしょう。でも、人が自発的に行う連続的な会話のやりとりには、言語能力だけでなく異文化理解能力も備えた人間の通訳者でないと対処できない側面が多々あります。
MTはルールベース、統計ベースからニューラルベース、つまりAIを活用するものへと進化する中で、その性能が急速に高まっています。美学的側面を持つ文芸作品や、字数などさまざまな制約のある字幕の翻訳が、近い将来AIにとってかわるとは思えませんが、技術資料やビジネス文書などを扱う「産業翻訳」の世界では「MT+ポストエディティング(PE)」が主流になるのではないかといわれています。PEとは、MTによる訳出を人間が編集する作業です。このPEを誰が担っていくのかが、翻訳研究者や産業界で議論されているホットな話題の一つです。
一方、通訳の「機械化」は少々複雑です。自動(機械)通訳は、音声をテクスト化し、そのテクストをMTにかけ、その結果(テクスト)を音声に戻すというステップを踏む仕組みになっています。まずは、正確な音声認識の技術が必要なのですが、話し言葉の特徴であるアクセントや言い淀み、またジェスチャーなどの非言語要素に対応するのは難しいことです。さらに、日本語には敬語があります。通訳者はコミュニケーションにおけるそれぞれの当事者の関係性などを見ながら適切なレベルの言葉を選んでいますが、こうした点はMTが苦手とするところです。
レストランでの注文や道案内などの短いトランザクションでしたら、自動通訳が対応できることもあるでしょう。でも、人が自発的に行う連続的な会話のやりとりには、言語能力だけでなく異文化理解能力も備えた人間の通訳者でないと対処できない側面が多々あります。
AI時代に求められる、「通訳?翻訳リテラシー」とは、どういったものでしょうか。
Web上の無料MTサービスは安易に活用しがちですが、その文章がすべてサービス提供会社のデータベースに記録されているという事実を理解した上で活用すべきです。例えば、社内の極秘文書や個人情報が含まれた文書など、それらをMTサービスにかけることによって、その情報がすべて吸い取られてしまうリスクがある点に目を向けるべきでしょう。
また、医療や裁判といった人の命や人生に関わる場面でMTによる誤訳があった場合、誰が責任をとるかという問題があります。こうした倫理的な問題が十分に議論されないままテクノロジーだけが先行すれば、大きなリスクにつながると懸念しています。
しかし、多言語多文化が共生する現代社会ではAIを活用した通訳?翻訳が生活の一部になっていくことが予想されます。コミュニケーションの目的によって、MTか、人手か、またその組み合わせで対処するのかを見極め、賢く活用していく。つまり、AIベースの通訳?翻訳サービスの利点やリスクなどをしっかりと理解した上で、適材適所的にAIを活用できるための基本的な知識が必要になったということです。こうした「通訳?翻訳リテラシー」の重要性を、授業を通して学生にも伝えています。
また、医療や裁判といった人の命や人生に関わる場面でMTによる誤訳があった場合、誰が責任をとるかという問題があります。こうした倫理的な問題が十分に議論されないままテクノロジーだけが先行すれば、大きなリスクにつながると懸念しています。
しかし、多言語多文化が共生する現代社会ではAIを活用した通訳?翻訳が生活の一部になっていくことが予想されます。コミュニケーションの目的によって、MTか、人手か、またその組み合わせで対処するのかを見極め、賢く活用していく。つまり、AIベースの通訳?翻訳サービスの利点やリスクなどをしっかりと理解した上で、適材適所的にAIを活用できるための基本的な知識が必要になったということです。こうした「通訳?翻訳リテラシー」の重要性を、授業を通して学生にも伝えています。
武田教授の3つの視点
- 日常生活に関わる「コミュニティ通訳」の需要が高まっている
- AIの発展はめざましいが、プロの通訳者にとってかわることはない
- AIを活用する際には、「通訳?翻訳リテラシー」が必要
※本記事は季刊「立教」243号(2018年1月発行)をもとに再構成したものです。定期購読のお申し込みはこちら
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武田 珂代子
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